武漢では長期の行動制限に備えを(中国)
赴任者が体験した渡航時隔離(3)

武漢では長期の行動制限に備えを(中国) 赴任者が体験した渡航時隔離(3)

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、中国では厳しい入国規制と隔離措置が実施されている。

本稿では、中国の湖北省武漢市に赴任した際の体験に基づき、経由地である大連市での隔離措置終了後から、最終目的地である武漢市での健康観察期間終了までの実際をまとめた。筆者は2021年9月30日に中国に入国。10月14日に大連市で14日間の隔離を終えた。

国内線搭乗手続きはほぼ通常どおり

大連市で隔離場所になったホテルをチェックアウト。その後は、専用のバスに乗り込み、大連周水子国際空港へ送迎された。隔離終了者専用のチェックインカウンターに通され、そこでチェックインし荷物を預け入れる。手続きは、通常時に航空機に搭乗する際と変わらない。ただし、チェックイン時に行動確認ミニアプリ「行程カード」などの提示のほか、航空券以外のオプションに関する支払い(荷物の追加支払いなど)を求められる。ここで現金支払いすると手続きに時間がかかる場合がある。そのため、キャッシュレス決済が可能であれば準備しておくとスムーズだ。

チェックイン手続き終了後、荷物検査などに入る。この間、隔離解除者専用のスペースに案内され、係員の案内が来るまで待つ。搭乗の30~40分前になると係員が迎えに来るので、その案内に従って搭乗口に向かう。なお、搭乗前の待機スペースには、飲食店や土産物屋などはない(トイレはある)。ただし、待機中は、掲示されているQRコードを読み取ることでマクドナルドなどの食品を注文することも可能だ。

隔離措置は社区によって対応に相違、事前リサーチを

湖北省では、7日間の集中隔離、7日間の自宅隔離、14日間の健康観察期間が課せられた(2021年10月14日時点)。ここでは、湖北省での措置について、各段階に分けて解説する。

(1)武漢到着(10月14日)

武漢の天河国際空港に到着すると、係員の指示があるまで自席で待機、指示を受けて飛行機を降りる。ただし、空港内に入ることはできない。タラップの上で専用バスの到着を待つことになる。

バスに乗り込み、まずは預け入れ荷物を受け取るために、預け入れ荷物のソーティングエリア(作業エリア)へ案内される。そこで自分の荷物をピックアップし、再びバスに乗り込む。

その後、隔離対象者専用の空港ロビーに案内される。居住区ごとに待機場所が割り振られるので、自分の最終目的地となる「市轄区」を伝える必要がある。自宅(居住地)がない場合は、集中隔離終了後に滞在するホテルの「市轄区」を伝えればよい。

その後は係員の指示に従い、書類に記入し、車の到着を待つ。その際に、「健康コード」や「行程コード」の提示を求められる。ただし、中国の携帯電話番号を持っていないため「健康コード」などを取得できない場合などは、その旨を伝えると免除されることもある。

武漢での手続きは、ホテルへの送迎車が来るまでにかなりの時間を要した。空腹などに襲われることもあるので、食事や飲み物を持参しておくと安心だ。送迎車でホテルへと向かう。ホテルは自ら指定できない。

(2)集中隔離(10月14~21日)

ホテル到着後、隔離開始の手続きおよび宿泊料金を一括で支払う。支払いは、現金やクレジットカードは受け付けられず、WeChatPayなどのモバイル決済だけ可能だった。初めての中国滞在でモバイル決済できない場合などは、現地法人などの関係者に立て替えてもらうなど、支払い方法を考えておく必要がある。筆者の場合、1泊340元(約5,780円、1元=約17円)が7泊分で合計2,380元だった。手続きを終えると、1週間分の水、20本程度のミネラルウォーターが配付される。荷物と水を持って、指定された部屋に向かう。

体温は原則、毎日9時ごろと15時ごろ、スタッフが玄関口で測定する。1週間の隔離中に、3回PCR検査された。

武漢では長期の行動制限に備えを(中国)
赴任者が体験した渡航時隔離(3)

食事は3食すべて廊下に置かれ、ごみは廊下に出す。日本食は出なかったが、量や味は特に問題なく、7日間を過ごすことができた。ただ、時々辛い料理が出る。出前は禁止で、代理購入も不可能だった。もっとも、会社などからの差し入れという形で物品を持ってきてもらうことは可能だった。なお、到着日は夜遅くに到着したところ、夕食の準備がなかった。事情を話したところ、その日に限り特別に出前を認めてもらった。

大連のホテルと同様、部屋にもホテルにも宿泊者が使用できる洗濯機はなかった(ランドリーサービスもなし)。洗濯は、必然的に手洗いになる。洗剤は購入できないので、自分で持参するか、現地の人に差し入れてもらう必要がある。

ホテルでは、感染防止対策などのため、暖房を使うことができなかった。ただ、泊まった部屋にはバスタブがあり、お湯を張ることができた。タオルは、バスタオル、手ぬぐい、足ふきマットがそれぞれ1種類ずつだけ提供された。備え付けの歯ブラシやシャンプーなどアメニティはあったが、心もとなかったので、武漢事務所のスタッフにお願いして、タオル類やトイレットペーパーなどを差し入れてもらった。

インターネット設備はあった。しかし無線接続がメインで、速度はやや遅めだった。ネット環境が不安な場合は、必要に応じスピードの速いポケットWi-Fiなどを持ち込めば安心だ。テレビは中国のインターネットテレビに限られる。日本語の番組はなかった。

問い合わせの際は、部屋にある電話でフロントに問い合わせる。この際、日本語非対応だった(おそらく英語対応も難しいと考えられる)。

(3)集中隔離から自宅隔離への移行、自宅隔離(10月21~28日)

集中隔離中、PCR検査で最後(3回目)まで陰性が出ると、7日間の自宅隔離へと移行する。その際に自宅や受け入れ先がない場合は、さらに7日間、集中隔離施設で過ごすこととなる。

集中隔離最終日に、フロントに事前にチェックアウトの可否について部屋から連絡し、許可が出れば部屋を出て1階へ向かい、チェックアウトする旨を伝える。大連では、チェックアウトと同時に隔離証明書を受領できた。対照的に武漢では、チェックアウト時に隔離証明書をもらうことができず、後日社区に取りに行くことになった。

自宅や受け入れ先には、タクシーなど車両で向かうこととなる。その際の移動手段(車など)は自己手配する必要がある。なお、自宅や受け入れ先が隔離ホテルから歩ける距離だったとしても、必ず車で移動しなくてはならない。

自宅に到着した後、7日間の自宅隔離が開始される。自宅隔離期間中は外出できない。さらに、期間中3回のPCR検査が部屋の前で義務付けられる。筆者は、サービスアパートメントで自宅隔離期間を過ごした(食事は出前)。ホテルの場合は、出前の可否などの条件が受け入れ先ごとに異なる。そのため、良質なサービスが受けられる場所を事前にリサーチしておくとよい。

(4)健康観察期間(10月28日~11月11日)

自宅隔離期間が終わると、14日間の健康観察期間に移行する。健康観察期間中は、7日目と14日目の2回、PCR検査が行われた。また、午前と午後に体温を測定し、それを社区に報告する必要がある(サービスアパートメントの場合などは、スタッフに体温を報告すると、スタッフが社区に報告してくれる場合もある)。14日目のPCR検査で陰性が出ると、隔離措置は終了となる。

健康観察期間の規定は、社区によって異なる。公共交通機関を使わなければ外出を認めるという社区もあれば、健康観察期間も外出は一切禁止という社区もある。従って通勤の必要がある場合は、社区にあらかじめ確認しておき、外出可能な社区にあるホテルなどを選定しておくとよい。

なお、集中隔離終了証明書と同様、自宅隔離終了証明書および健康観察期間終了証明書は、原則社区の事務所に取りに行く必要があった。居留許可を申請する場合など、提示を求められることもある。そのため、健康観察期間が終わり次第、速やかに取りにいくと安心だ。

隔離終了後に居留許可申請の場合は、事前に公安に連絡

中国では、労働ビザで入国した場合、30日以内に必要な手続きを完了し、居留許可を申請する必要がある。しかし、湖北省に赴任する場合、入国から健康観察期間終了まで合計42日間の行動制限が課される。そのため、30日以内に手続きすることができない。

このような場合、公安局にあらかじめその旨を連絡し、今後の手続きについて聞いておく必要がある。今回、隔離措置のために30日以内の居留許可申請ができない旨を伝えたところ、居留許可申請は健康観察期間終了後で問題ないという回答をもらった。同時に、居留許可申請時に、入国時の集中隔離終了証明書、武漢での隔離終了証明書、健康観察期間の終了証明書など各種証明書を入手し、提示できるように指示があった。

居留許可の申請手順については、所々で隔離終了証明書を提示・提出する以外は平常時とほぼ変わらなかった。

武漢市専用の健康コードが必須、隔離中に要申請

武漢市では、健康観察期間はもちろん、健康観察期間終了後も度々、「行程コード」以外にも、武漢市のポータルサイト「鄂彙弁」の「健康コード」の提示を求められる。「行程コード」と併せて取得しておくことが望ましい。

注意すべきポイントは、中国籍と外国籍とでは、スマートフォンアプリ上の「健康コード」の申請場所が異なる点だ。外国籍の場合、申請場所が分かりにくい部分があるので要注意だ。申請には、電話番号とパスポート番号が必要になる。

「鄂彙弁」に必要事項を入力すると、「健康コード」(QRコード)が表示される。問題がなければ緑色だが、審査中の場合、QRコードが灰色となる。審査結果は24時間以内に判明する。中国に来たばかりで携帯電話(電話番号)がなく申請できない場合などは、事前に事情を話せば理解してもらえる場合もある。しかし、無用なトラブルを避けるためにも、外出が可能になる3日前くらいまでには申請しておくとよいだろう。

キャッシュレス決済への対応が困難な場合は、現地側のサポートが必要

一連の隔離措置を経験して最も強く感じたことは、携帯電話番号およびモバイル決済の重要性だ。

「健康コード」や「行程コード」の申請の際、中国の携帯電話番号を求められるなど、中国で使用できる携帯電話番号がないと厳しいと感じる場面が多かった。筆者は、事務所スタッフにお願いし、中国の携帯電話のSIMカードを送付してもらい、携帯電話(SIMフリー)を使用した。申請画面では、携帯電話番号を登録した際、その携帯電話番号のショートメッセージ(SMS)に送付されるPINコードを入力する必要がある。そのため、SMSも見られるよう準備をしておくことが大切になる。

中国では近年、モバイル決済が急速に普及してきた。生活上のほぼすべての支払いをモバイル決済でというのが、むしろ標準だ。外国人がモバイル決済を行う場合、中国での携帯番号や銀行口座などが必要になる。しかし、筆者は初めての中国駐在となるため、中国の銀行口座は開設していなかった。その結果としてモバイル決済が使用できず、支払いなどで苦労した。

SIMカードの方は、現地スタッフなどを頼ると調達もできる。しかし、特に初めての中国駐在で、銀行口座がなくモバイル決済を利用することができない場合は、現地側で立て替えてもらうなど、中国入国前に現地事務所などと対応方法を相談しておくとよいだろう。

湖北省内でも、隔離措置は区によって異なる。また、隔離措置の内容も感染状況などに合わせて変化する。湖北省に渡航する際は、現地拠点経由で省政府、市政府、社区などと密に連絡を取り合い、措置の内容を把握したうえで、柔軟に対応していくことが肝要だ。