まもなく始まる? コード決済手数料有料化。手数料は“悪”なのか
コード決済の手数料率の実際
2018年ごろにコード決済事業者の市場参入が加速したとき、各事業者は加盟店開拓の呼び水として「短期間の手数料無料化」を打ち出した。
本来であれば重要な収入源である手数料を無料化しても加盟店開拓を優先する流れは業界の体力競争を激化させる結果となったが、それも間もなく終了しようとしている。
特に参入前から複数の関係者が「おそらく本命になる」と指摘していたPayPayがこの動きを助長したため、それに追随せざるを得なかったという背景もある。
競合他社の無料期間対応状況をみると、メルペイは6月30日まで、個別の加盟店営業をメルペイに相乗りしているd払いの場合は9月30日まで(4月1日以降申し込みの場合)、au PAYは現状で7月31日までの無料をうたっているが、8月以降は有料化の可能性を示唆している。LINE PayについてはPayPayとの加盟店統合も見据え、もともと8月だった無料対応時期を延長して9月30日に揃えている。
PayPayの加盟店手数料に関する説明無料対応自体がもともと期間を区切ったものであり、それを予告通り止めるというのは約束違反でも何でもない。
ただ、もともと手数料や機器の設置負担などを嫌がってクレジットカードなどのキャッシュレス決済手段を導入してこなかった中小規模の店舗が、「(期間限定だが)手数料無料」「専用機器も必要なく、送付したQRコードを掲示するだけ」という手軽さで一気にコード決済導入に傾いたという背景もあり、手数料有料化がこの流れにネガティブな影響を与えるのではないかという話だ。
実際、最近になり「手数料有料化がPayPayを含むコード決済事業者への逆風になる」という内容で同加盟店の声を紹介する報道が複数出てくるなど、加盟店にとっての関心事であるのは確かなようだ。
筆者が以前に和歌山県の紀伊田辺を取材したとき、PayPayを率先して導入した米屋“たがみ”の田上氏は「手数料無料で、利用にあたって余計な費用はかからないし、嫌ならいつでも止めればいい」を合い言葉に、地元商店主らにPayPay導入を積極的に呼びかけたという。結果として、2年前の訪問時に紀伊田辺駅周辺の多くの店ではPayPayが利用可能になっており、PayPayの“のぼり”やアクセプタンスマークをあちこちで見かけることができた。
もしこれら小規模な店舗がPayPay利用のメリットを感じられないまま手数料有料化に踏み切れば、加盟店から脱退したり、あるいはそのままPayPayが使えることをアピールせずにフェードアウトしてしまうかもしれない。ゆえに、PayPay側も有料化の判断と料率設定にはかなり神経を尖らせている状態にある。
2年前の時点で紀伊田辺駅周辺では多くの店でPayPay利用が可能になっていた1点注意しておきたいのは、PayPayを含む「決済手数料無料」をうたっているコード決済事業者について、手数料無料が適用されるのは「MPM方式で直接契約を結んだ場合」に限定される点だ。つまり、加盟店契約後に専用機器を設置せず、サービス事業者から送られてくる印刷されたQRコードを設置しただけの状態でのみ「手数料無料」となる。
それ以外のケース、例えばJPQRやSmart Codeのような共通コードを利用していたり、「ゲートウェイ」と呼ばれる代行業者経由でコード決済のアクワイアリングを行なった場合には、きちんと料率が設定されて手数料が徴収されている。リクルートのAirペイのような仕組みや、チェーン店のPOSでバーコードを赤外線リーダーで読み込む方式などがそれに該当する。
すでにコンビニやスーパーなどでは相当数のコード決済が行なわれていることは想像に難くないが、これら決済を通じて毎回2-3%程度の手数料が現在もコード決済事業者に支払われている。
さらにいえば、JPQRを通じて行なった決済でPayPayの料率が9月30日まで2.59%、10月以降は3.24%に設定されているのは、共通コードではなくPayPayとの直契約に誘導するための意図的な高い料率設定だ。
PayPay取締役副社長執行役員COOの馬場一氏は以前にも「高い料率での(中継業者との)契約よりも、われわれと直に契約した方が無料でいろいろお得なのに」とインタビューの席で回答している。同氏は手数料の有料化についても「業界最安の水準を目指す」ことをあちこちで公言しており、一部でいわれるような「業界トップに躍り出たので、料率を一気に上げて収奪に乗り出す」という意図はもっていない。ただ、貴重な収入源である「手数料が無料」という状態は業界全体でみても健全な状態にあるとは言い難く、そのバランスに頭を悩ませていることは確かなようだ。