2030年、どんな未来を描きますか: 日本経済新聞

2030年、どんな未来を描きますか: 日本経済新聞

2030年、どんな未来を描きますか

「ゲームチェンジ」の時代がやってくる。社会の分断や格差の拡大、環境問題など様々な課題を背景に、国家、経済、社会、あらゆる分野のルールや前提が変わる。過去の常識はもう通用しない。2030年に向けて、世界とあなたはどんな未来を描くのか。果て無き挑戦が始まる。

日本経済新聞は1月31日、
連載企画「2030 Game Change」をスタートした。


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<私たちを待つ5つの変化>

1 「もうひとりの自分」と生きる
2 「捨てない経済」がやってくる
3  社会を動かす「見えないお金」
4 一生、学び続けよう
5 夏休みは宇宙旅行で
TOPIC1

「もうひとりの自分」と生きる

「テクノロジーは『私たちが誰か』を変えるのではなく、私たちの良いところも悪いところも『拡大』する」

Technology doesn't change who we are, it magnifies who we are, the good and the bad.

(ティム・クック、米アップル最高経営責任者)


デジタルの世界と現実がつながり、行き来しながら生きる。30年にはSF小説や映画で描かれた世界が現実のものになるかもしれない。そこで活躍するのはデジタルな分身である「もうひとりの自分」だ。メタバースと呼ばれる仮想世界で働き、買い物をし、イベントに参加する。ゲームなどで使われてきた仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術を使った新しい世界は日常生活の一部となる。

バーチャルとリアルが融合する


メタバースでは多数の人や企業が参加する経済圏が広がる。そこで得た報酬や資産、経験は現実の自分のものになる。30年に100兆円を超えると予想される市場をにらみ、米メタ(旧フェイスブック)や米マイクロソフトなどのテック大手、日本企業が相次ぎ関連サービスの開発に乗り出している。


「仮想の土地」を4億円で買う例も


メタバース経済圏での取引対象は現実のモノだけでなく、デジタルアートや仮想の土地などのデジタル資産だ。公開済みの「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」や「Decentraland(ディセントラランド)」といったゲーム用のメタバースでは、仮想の土地を4億円以上で購入したり、仮想の土地で運用する不動産投資信託(REIT)を組成したりする動きも出ている。


TOPIC2

「捨てない経済」がやってくる

「問題を引き起こしたときと同じような意識では、問題解決はできない」

Problems cannot be solved at the same level of awareness that created them.

(アルバート・アインシュタイン、米物理学者)

2030年、どんな未来を描きますか: 日本経済新聞


新しい資源を使わず、廃棄物を出さない「循環経済」への転換が急務だ。1970年代に「100年以内に資源が枯渇し成長は限界に達する」と指摘された懸念が現実のものになりつつある。未来を変えるカギは資源を使わずモノを作る技術、そして政府、企業、人々の意識と行動の変化だ。

「地球2個以上」の資源が必要


「捨てない経済」は人類存続の前提条件だ。経済維持に必要な自然や資源などの容量を地球の大きさで示す「エコロジカル・フットプリント」という指標では、現時点ですでに1.7〜1.8個分の資源が必要だ。30年には地球2個以上の資源が必要になる見通しで「地球がもたない」のは明らかだ。


資源を捨てずに循環させる


循環経済は「サーキュラーエコノミー(円形の経済)」と呼ばれ、資源を使用・消費・廃棄する現在の「リニアエコノミー(直線の経済)」と対比される。意識の改革に加え、古い洋服から化学繊維の材料を取り出し新しい服を作ったり、空気から水を生み出したりする技術革新もカギになる。


TOPIC3

社会を動かす「見えないお金」

「アイデアが歴史をつくる」

Ideas shape the course of history.

(ジョン・メイナード・ケインズ、英経済学者)


「見えないお金」は社会や経済を一変させる。20年に世界初の中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)がバハマで発行された。30年までにはさらに多くの国・地域が続く見通しだ。お金がデジタル化されると低コストで瞬時に送金できるようになる。個人情報もお金にひもづけられるため、国は課税や分配などの政策を迅速に打ち出せる。新興国など銀行口座を持たない人にサービスが行き渡る期待も出ている。

見えないお金が信用の担い手に


世界最古の硬貨は紀元前670年ごろ、現在のトルコで鋳造された「エレクトロン貨」とされる。お金のカタチや信用の源泉は時代とともに変わり、いよいよ暗号資産やCBDCなどの見えないお金が登場する。お金にひも付けられる膨大なデータを誰がどう使うか。アイデア次第で国や企業の戦略、人々の経済活動まで一変する。


強い通貨持たない新興国が動いた


バハマやカンボジアなど強い自国通貨や金融インフラを持たない国が真っ先にCBDC発行へ動いた。暗号資産(仮想通貨)などの流通で自国の資金管理への懸念が出る中、通貨の主権を保ちデジタルの利便性を享受できるCBDCへの注目度は高い。強い基軸通貨ドルを持つ米国は導入に慎重だが、中国は22年の本格発行を視野に入れる。「デジタルドル」や「デジタル円」が当たり前の決済手段になる日が来るのも近い。


TOPIC4

一生、学び続けよう

「21世紀に重要なただ一つのスキルは、新しいスキルを学ぶスキルだ」

The only skill that will be important in the 21st century is the skill of learning new skills.

(ピーター・ドラッカー、米経営学者)


仕事や学びは大きく変わる。米マッキンゼー・グローバル・インスティテュートによると、30年までに世界で4億〜8億人の雇用が自動化によって失われ、うち現役世代の4億人近くは新しいスキルを身につけ、新しい仕事に就く必要があるという。学歴や既存のスキルだけではなく、「一生、新しいスキルを学び続けられる」人材を育てる仕組みづくりが欠かせない。

人ならではの仕事創出


日本では新たに能力を身につける「リスキリング」が急務だ。デジタルスキルを持つ人は労働者の半分にとどまり7~8割の米国や中国、シンガポールなどを下回る。一方で30年までに自動化で代替できてしまう雇用の比率は55%強と米国(46%)や中国(51%)、ドイツ(48%)より高い。リスキリングによって、人ならではの仕事の創出や次世代ビジネスの育成を急ぐ必要がある。


中国はスキル向上が成長をけん引


スキル向上は国の成長をけん引する。世界経済フォーラム(WEF)とプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の推計によると、スキル向上で30年までに雇用の需給ギャップを解消できれば、中国のGDPは7%超押し上げられ主要国で最大だ。次にインドやスペインなどが続く。日本は2%押し上げられるだけで、官民一体でデジタルスキルを向上させる対策などが焦点になる。


TOPIC5

夏休みは宇宙旅行で

「何が不可能なのかは簡単には言えない。昨日の夢は今日の希望であり、明日の現実なのだから」

It is difficult to say what is impossible, for the dream of yesterday is the hope of today and the reality of tomorrow.

(ロバート・H・ゴダード、「ロケットの父」と称される米発明家)


宇宙はぐっと身近になる。21年には米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏らが民間人による宇宙旅行に成功した。今後10年、さらに多くの企業や個人が旅立ち「宇宙の大航海時代」が幕を開ける。米スペースXを率いるイーロン・マスク氏はロケット打ち上げのコストについて「1キログラムあたり10ドルまで下げられる」とみる。ブロッコリーや肉を買う値段より安い。低コストでモノやヒトを宇宙に運べ、「宇宙旅行」や「宇宙出張」を身近に感じる時代はそう遠くない。


主役は企業や個人へ


宇宙利用は急速に進む。足掛かりは27〜28年に計画される商業宇宙ステーションの稼働だ。日米欧などが運営する今の国際宇宙ステーション(ISS)が31年以降に退役する一方、米航空宇宙局(NASA)から委託を受けた米ブルーオリジンなど民間各社が新施設を立ち上げる。居住棟や実験棟の商業利用、ステーションに接続した宇宙ホテルなどの構想も広がっており、新たなイノベーションを生む場にもなる。


宇宙の大航海時代が見えてくる


宇宙は国家間の軍事・科学開発競争の舞台だった。ロケット打ち上げ回数をみると、米国と旧ソ連がこぞって有人飛行を成功させた1961年から数年間が活発で、ただ足元では人工衛星の利用拡大などで民間による宇宙利用が急増している。30年には人類が競争ではなく成長を求め、地球外へ旅立つ「宇宙の大航海時代」の入り口が見えてくる。

グラフィックス=市川真樹、藤沢愛、佐藤綾香

記事=富田美緒、伊地知将史

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