スマホのSIMロックが原則禁止になる一方でイオンモバイルのセット販売が好調な理由
■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はSIMロック原則禁止と、それに伴うスマートフォン市場の今後の変化について話し合っていきます。
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イオンモバイルSIM×キャリア端末のセット購入も可能に
房野氏:2021年の10月1日以降に販売するスマートフォンについて、SIMロックが原則禁止になります。通信と端末の分離により、キャリア端末は単体での販売もされています。そんな中、イオンモバイルが、大手キャリアが販売する端末をイオンモバイルのSIMカードともセットで販売すると発表しました。これについて、どう思われますか?
房野氏
石野氏:すでに、例えばドコモだと、一括払いで買うとSIMロックを解除した状態で端末を渡してくれます。10月にSIMロックが原則禁止になったところで、そんなに状況は変わらないだろうなと思っていたら、イオンモバイルが自社の通信サービスとキャリアの端末を組み合わせるという売り方で来るんだと。こういう売り方をするMVNOや家電量販店が続出しちゃうと、影響が大きいなと思いを改めました。
石野氏
石川氏:インパクトが大きい。あそこまで行ってしまうと、キャリア専売モデルというか、オリジナルモデルがなくなっていくだろうなと思って、それを非常に危惧しています。端末を売ることがリスクになってくる気もするし。なんかね、特徴のない端末しか出てこなくなって、つまらなくなるんじゃないかなと。
石川氏
石野氏:一方で、最近のキャリアがそんなに面白い端末を出せているかというと、うーんというところもある。「Galaxy Fold 3」とかを見ると、最近はメーカーのがんばりがすごい。
「Galaxy Fold 3」
石川氏:ただ、「Leitz Phone 1」みたいな端末をシャープだけで出せるかといったら、出せないじゃないですか。
「Leitz Phone 1」
法林氏:一応、キャリアとしては端末を売れば儲かるからね。ソフトバンクは、仕入れ値により一層利益を乗せているので、儲かっていると思う。端末ビジネスはそういう路線だと思う。ただ、ユーザー側から見た時に、キャリアで端末を買う意味がどこにあるのか、だんだん問われるようになると思う。メーカー側からすると、キャリア向けに作った方が儲かる。SIMフリーで売れば、一般の流通に乗せるので、当然、売れなければ、返品があるけれど、キャリアに収めた分に関しては、基本的にすべて買い取りで、追加発注があるかないかくらいの世界でしかない。とりあえず10万台と言われたら10万台作っちゃえばいい。
法林氏
石野氏:SIMロック自体はそうなんですけど、イオンがああいう売り方をやっちゃうと、結構波及しそうだなと。
法林氏:ただ、イオンモバイルがキャリア端末とセット販売できる理由は、イオンがキャリアのものを売っているから。
石川氏:そうです、そうです。イオンは携帯電話販売代理店として、大手3社のキャリアショップを運営している。
法林氏:それが大きい。それをやっている会社がほかにあるかというと、なかなかない。
石野氏:ビックカメラとか……
法林氏:量販店の場合は、販売代理店さんがそこに入ってやっているはず。
石野氏:そうか、量販店が代理店というわけではないのか。
法林氏:基本的に直ではないはず。例えば、携帯電話販売代理店のティーガイアが量販店で「ソフトバンクの端末をここで売っているけど、端末だけ売っていいですか?」と言ったら、たぶん「やめてください」という話になると思う。でも、イオンならそれができちゃう。
石川氏:下手したら、本当に3社の端末が並びますからね。
法林氏:イオンでキャリア端末が回線契約なしで買えてしまう話は、完全に裏技なので。
石野氏:そうですねぇ。買えるんだとわからせちゃうところが、もうなんか……
石川氏:イオンに買いに行っちゃうな(笑)
SIMロック原則禁止で端末価格が上がる?
石野氏:単体販売がどんどんメジャー化してきているというか、SIMロック原則禁止でイオンが単体販売をするなど、この動きがちょっと広がっていく可能性があります。そうすると大手キャリアはやりにくくなるところがあるかなと。今後、調達台数が渋くなっていくんじゃないかなって気がします。
法林氏:特に今は半導体不足の話もあるので、この秋以降、新しいiPhoneも含めて意外に早く終売しちゃう端末が多くなる可能性がある。去年の夏にauから出たOPPOの「Find X2 Pro」が幻の端末とか「どこで買えたの?」とか言われちゃったけれど、ああいう風になっちゃう可能性はある。
「Find X2 Pro」
石野氏:ソフトンバンクみたいに端末の値段を高くして、自社のユーザーには「2年でアップグレードプログラム(トクするサポート+)を使ってくれれば、半額になってすごく安いですよ」ということにすると、他社のユーザーが買うメリットはあまりなくなる。昔、孫さんが「SIMロック解除をすると端末代が高くなる」言っていたのは、そういうことだったのかと。あの時は散々、孫さんを否定してしまって非常に申し訳なかったです。孫さん、ごめんなさいって(笑)
ソフトバンクグループ株式会社
石川氏:そういうプログラムは、ソフトバンクを契約していなくても利用できるじゃないですか。
石野氏:そうですね。
石川氏:そのビジネスモデルって、めっちゃリスクが高いじゃないですか。iPhoneは2年経ってもそんなに価値が落ちないけど、Android端末を半額負担って大丈夫なのかなと思う。ソフトバンクはLenovoの折り畳みPC「ThinkPad X1 Fold」もトクするサポート+の対象にしているじゃないですか。あれが本当にビジネスモデルとして成り立つのか、結構微妙なんじゃないかなと思います。つまり買い取る側からすると、安いものを高く買うことになるんじゃないかなと。しかも、MVNOのSIMカードと組み合わされたら、通信収入が入ってこないわけですよ。
石野氏:ただ、トクするサポート+は機種変更しないといけなかったでしたっけ?
法林氏:それはルールでダメにしたんじゃなかったっけ。
石野氏:色々変わりすぎていて、どうなっているのかわかりにくくて……
石川氏:回線契約しなくても機種変更はしなきゃいけないのかな……
石野氏:「この場合は機種変更を条件にしちゃダメ」とか、ケース別でルールがあるんですよ。トクするサポート+のウェブサイトには「当社指定の回収・査定条件を満たす必要があります」とある。回線縛りがなければ買い換えを条件付けてもいいとか、そんな感じだったんじゃなかったでしたっけ……「48回割賦で購入し、25か月目のソフトバンクでの買い換え・回収で!」とあるので、やっぱり買い換えが必要ですね。「旧機種の回収だけ希望される方」の説明もあって、端末回収だけする場合はPayPayボーナス付与で、しかも「査定時に当社が定める額」になっているので、単なる中古端末の買取なんですよ。
法林氏:そういうことか。
石川氏:あー……
石野氏:トクするサポート+を利用して本当に半額にしようと思ったら、「どんどんウチ(ソフトバンク)で買い換えてください」ってことになるんで、これはこれでまぁ、なるほどって感じですね。
法林氏:なるほど。
石野氏:「ソフトバンクから出て行く人にはあまり出しませんよ」って感じなんじゃないですかね。と考えると、だんだん端末に利益を乗せるようになってきちゃうだろうなと。端末をほかで買われちゃうんだったら「何のために原価ギリギリで出しているんだ」ってことになってくるので、今は安いドコモも、今後は「ウチもちゃんと端末販売は端末販売として利益を出しますよ」という方向に行っちゃう可能性がある。そういう意味で、長い目で見ると、ユーザーにとっては安く端末を買えるルートがさらになくなってしまうというか。今のドコモだとグローバル版とあまり変わらない価格で買えますが、当然、今後は日本向けカスタマイズ分の金額が乗ってくることもあり得るかなという気がします。
房野氏:キャリアは回線だけ売る、端末はもう売らないという可能性は考えられますか?
法林氏:それはないと思います。通信契約と端末販売が分離されている海外のキャリアも端末を売っていますから。「海外のキャリアは回線だけ売っている」と言っている人たちの情報が間違っている。海外でもキャリアはガンガンスマートフォンなどを売っています。
石野氏:キャリアショップがありますしね。
法林氏:通信契約と端末販売を分離していても、端末をバリバリ売っています。ただ、当然、キャリアで買うモデルと普通のお店で買うモデルは値段が違う。「Best Buy」で買う時でも、T-Mobileのモデルを買うと安いけれど、純粋なSIMフリー端末は高い、みたいな。その値段の差はあります。
石野氏:あとAndroidの場合ですけど、日本ほどカスタマイズはされていない。例えばドコモ端末には「docomo LIVE UX」や「my daiz」が入っていたりしますが、そういうものはあまりない。アプリくらいは入っているかな。周波数をキャリアに最適化することも、日本ほどはない。一応、端末と通信は分離されてはいるけれど、キャリアショップはあるし、ユーザーが他キャリアのショップに端末だけ買いに行くということは、少ないんじゃないかと思います。
「my daiz」
房野氏:先ほどLeitz Phone 1のようなスマホが出てきにくくなるとの話がありました。ああいう端末は、キャリアが買い取ってくれる前提だからできると。それが、例えば量販店やイオンで売られてしまうと、メーカーはB2Bではなくて、B2C寄りにシフトしなくちゃいけなくなると思われます。そのためにメーカーの調達コストが上がるとか数字が読めないとかで、新製品を出しにくくなるようなこともあり得るでしょうか。
石野氏:ありますね。
法林氏:かなりあると思います。
石川氏:売れるもの、無難なものしか作らなくなっていくんじゃないかなと。ドコモはかつて「カードケータイ」とかユニークな端末を作ったじゃないですか。ああいったモデルがなくなっちゃう。
2018年11月22日に発売された、ドコモ「カードケータイ」
石野氏:ああいうのはなくなりますよね、Leitz Phoneくらいだったら、まぁ、あるかなって感じもしますが。折り畳みの「M」はもうできないだろうなって感じですよね。
2018年2月9日に発売されたドコモ「M」
法林氏:ないない(笑)
「AQUOS R6」
石野氏:わかりやすいのはiPhoneですよね。SIMフリーの価格と比べてソフトバンクのiPhoneがどんどん高くなっているのも、その理由ですし。「SIMフリーにすると値段が2万円、3万円高くなる」をようやく実践する段階に来ているのかなと(笑)
法林氏:何年経っているんだか(笑)
端末の単体販売がいいことだらけとは限らない
房野氏:総務省は分離プランを進めてきました。また、端末の割引サービスも制限しています。一方、各キャリアはahamoなどオンライン専用プランを提供していますが、そこまで低価格にシフトしていないと思います。SIMフリーになると端末の値段が上がる傾向ということになると、ユーザーにとってのメリットって何なんでしょうね。
法林氏:この何年間も我々みんなが言い続けていた通り、総務省のやっていることはズレているということですよ。携帯電話の回線利用料は20GBで月額2980円くらいに下がったけれど、それをみんなが選べるわけじゃない。この半年くらい見ていると、携帯電話料金を安くしたい人は、結構上の年代の人なんじゃないかなって気がすごくしています。実働の世代じゃなくて、たぶん60代以上の人かなって感じがする。でも、そういう人たちは、実はフィーチャーフォンだったりして、すでにそこそこ安いんですよ。そこがスマホにするのに障害になるから云々と言われても……と思います。
石野氏:分離プランの意向についてはまぁ、わかるんです。料金を安くして、端末の割引は端末として別にしなさいというところまではわかるんですけど、他キャリアのユーザーでも単体で買えるようにしなさいとか、「その分離、いる?」っていうのがありますよね。
石川氏:そうそう。1か0かの議論しかしていない。その辺がちょっと間違っていると思う。確かに分離で料金も端末も安く買いたい人がいるので、その選択肢はアリだし、逆にフルサービスでいいという人もいる。20年間ドコモユーザで、この先もドコモをやめる気はサラサラなく、ドコモにおんぶに抱っこのフルサポートで、何も考えずに快適に使わせほしいって人も当然いる。だったら、端末と通信サービスをがっちり紐付けて、フルサポートで端末も安く買えるけど、毎月高い料金を払う人がいるっていう選択肢があってもいいような気がする。それが健全じゃないですか。航空業界だって、JALやANAのフルサポートで乗る人とLCCで安く飛びたい人がいる。そういうのが本来の競争であるはずなのに、一律に縛ってしまうのは違うんじゃないかと思う。
石野氏:そうですね。端末を単体で買える必要がどこまであるのか、競争の促進につながるのか、ちょっと疑問です。確かにドコモで端末を買って、ソフトバンクにMNPする時にSIMロックを外せないというのは問題かもしれないですが、単体で販売できるようにしなさいというのは、誰にとって得なのかちょっとわからないですね。
法林氏:「全キャリアの周波数に対応してよ」と言う人もいるけれど、「なぜ使いもしない周波数のお金を払うんだよ」ってことになる。例えば、僕がauユーザーだとする。「国内で販売する端末はドコモでもソフトバンクでもつながるように、すべての周波数をサポートしてください」って話になると、僕は使いもしないドコモとソフトバンク用の周波数に接続するためのコスト、例えば端末のアンテナを設計するコストや接続試験のためのコストを間接的に払うことになるわけですよ。「全周波数をサポートしてよ」って主張している人たちは、こういうコスト構造をわからずに、好き勝手なことを言ってる。
石川氏:そうなんですよ。
石野氏:ソフトバンクがもしGalaxy Fold 3を出したら、ほかの会社の周波数のテスト代で30万円を超えるんじゃないですかね。だから、総務省もそこまでは言及していないんですよ。キャリア側も、他社の周波数に対応するかどうかはメーカーの任意で、そこまでの強制はしていないということになっている。パブリックコメントでもそういう風に出ています。他社の周波数もちゃんと対応しろというのは、一部の人が言っているだけ。
法林氏:それはSIMフリー端末でやればいいわけですよ。
石野氏:SIMフリーでもできていない現状がありますね。
石川氏:周波数でスマホを選ぼうとすると、結局iPhoneになっちゃう。「じゃあ、みんなでiPhoneを買いましょうよ」となればいいのかもしれないけれど、そうじゃないでしょってことなので。「ちゃんとキャリア向けにカスタマイズされている方が、むしろいいんじゃないのかな」というところが、わかっていないといけないと思います。
石野氏:本当にやりたいんだったら、もう周波数割り当ての段階で全部同じにするとか、もっと条件を平等にする。変なところを割り当てちゃったら、その分の費用を出してあげるとか、制度でやれることはまだまだあると思います。そこを手当しないまま、やれ端末を単体で売れということだけ先行しちゃっているのが、おかしいなって気がします。
......続く!
次回は、新型「iPhone」について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ!
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/房野麻子