場所にとらわれない働き方が生産性向上につながる。日本テレワーク協会とNVIDIAが考える新しいテレワークの姿とは?
2021年6月22日、TECH+の会員500名を対象に行ったアンケートによると、現在テレワークをまったく行っていないという回答が50%以上にのぼった。
日本テレワーク協会専務理事田宮一夫氏
後藤:以前に比べてテレワーク実施率は上がりました。ただ、完全にテレワークに移行することはまれで、むしろ、以前のように出社中心の働き方に戻っているようにも見えます。どうご覧になっていますか。
田宮:テレワークの実施率はいろいろな組織が調査していますが、対象とするゾーンや人数、調査方法の違いでかなり差が出ます。大手企業のホワイトカラー中心なら実施率は高く出やすく、中小規模も含めさまざまな職種を対象に数万人規模で調査すると低く出やすいです。直近で公表された調査では東京商工会議所が参考になります。この調査では、昨年66.2%だったものが、今年5月の段階で27.8ポイント下がって38.4%になりました。
後藤:約半分ですね。思った以上に大きく下がっていますね。実際、緊急事態宣言下でも、昨年ほど人流は減っていませんよね。
エヌビディア合同会社エンタープライズ事業本部vGPUビジネス開発マネージャー後藤祐一郎氏
田宮:昨年は、コロナ対策として急いで対策を講じ、在宅勤務をベースにしたテレワークに一斉に移行しました。これに対し今年は、在宅ではなく、交代制で出社するようになっています。インフラ整備ができずテレワーク自体を止めてしまったケースや、テレワークが可能な業務がないことを理由にテレワークを止める動きも顕著になっています。
後藤:確かに、製造業における製造ラインや、接客・飲食を伴う小売業、外食業などは出社せざるをえません。また、デジタルな環境が整っていなければ、テレワークしたくてもできないという事情もあります。
田宮:実際に企業の声を聞いていると、両極端になっている印象です。この1年でデジタル化が進み、クラウドなどを使ってひととおりのことができるようになりました。しかし、テレワークで生産性が改善したという声と、出社しなければ生産性が保たれないという声に分かれ始めています。
アンケートからも、テレワークが減った理由として「出社しないとできない業務が多い」「IT環境が整備されていない」の回答が大半を占めていることがわかる。
中小企業では自分たちだけで課題を解決できなくなっている
後藤:ITやデジタルを使ったインフラ整備では何が課題になっているのでしょうか。
田宮:業務に占めるIT活用やセキュリティの割合が広がったことで、対応が難しくなっていることが挙げられます。特に中小企業ではあれもこれも対応する必要があり、自分たちだけで解決できなくなりつつあります。日本テレワーク協会の中小企業部会にも、労務管理規定をどう見直せばいいか、どこに相談をすればいいか、中小企業向け活用事例を教えてほしいといった声が多数寄せられています。
後藤:相談先もわからなくなっているのですね。相談できてもいただいた提案が正しいかどうかという判断が難しい。企業ごとに予算や期間が違うでしょうから、適切な回答を出す難しさもありますね。
田宮:部会では1問1答形式で回答を用意して提供しています。また、厚労省では労務系の相談窓口を設けて「コンサルタント」が相談対応をしたり、総務省では「テレワークマネージャー」が訪問してアドバイスすることも行なっています。また東京都は独自に「ワークスタイルコンサル」という制度で、東京都から派遣しています。ただ、制度を利用されている方は圧倒的に少ないことが課題です。地方企業からは、そもそもそういった制度がないといった声も届いています。重要なことは、在宅でのテレワーク環境を整備すれば終わりではなく、働く場所をそのときどきの状況に合わせて柔軟に変えられること。それを従業員が選択して生産性を高められることです。
後藤:フル在宅、フル出社というのではなく、フレキシブルに働く場所を選択するということですね。それは我々も推進している「フレキシブルワーク」に通じる考え方です。
田宮:そうですね。ITを活用してさまざな業務プロセスをカバーし、セキュリティ課題なども解消していくことで、多様な働き方をサポートしていくことが求められます。
仮想GPUソリューションが目指す「コミュニケーションのDX」
アンケートでは、テレワーク環境の今後への期待として「コミュニケーションが円滑に取れる」「テレワーク環境のパフォーマンスが改善される」「データがセキュアに守られる」「1台のノートPCからさまざまな業務のデータやデスクトップ環境を使い分けたい」など、さまざまな意見が寄せられた。これらの希望を叶え、「場所を選ばずに仕事ができる」環境を構築することはできるだろうか。
後藤:NVIDIAの仮想GPUソリューションは2013年頃から始まりました。当初はCADなど、製造業や自動車業界の設計開発業務を対象としていましたが、その後、建設、エネルギー、インフラ、金融、教育、医療、メディア&エンターテインメント、自治体など、幅広い業種や業務のテレワーク実現のために利用が広がっていきました。また、Windows 7からWindows 10への切り替えに伴ってOSやマイクロソフトオフィス、動画やWebブラウザの利用でもGPUリソースの活用が重要になりました。さらに近年は、コロナ禍のテレワークでVDIなどの利用が進み、ビジネスユーザーにも用途が広がってきています。働き方として重要なフレキシブルワークの実現にあたり、ただ在宅から会社のデスクトップ環境につながれば十分というわけではありません。いつでもどこでもどんなデバイスからでも柔軟に、生産性を落とさず働くことができる環境を提供するためには、まだまだ解決すべき課題が多いと感じています。
田宮:NVIDIAのGPUというと、ゲームでのグラフィックスやスーパーコンピュータでの利用といったイメージがありますね。仮想GPUをテレワークで利用するとどのようなメリットが得られるのですか。
後藤:たとえば、Web会議での利用があります。テレワークが普及して、在宅でWeb会議を利用する方が増えましたが、その際にスムーズに画面が表示されない、コマ落ちする、音声が途切れるといったトラブルに遭遇する方も急増しました。そうしたトラブルにCPU負荷を軽減してスムーズな体感を実現するために、仮想GPUでご支援をさせていただくケースが増えています。
田宮:Web会議でのトラブルによってコミュニケーションが妨げられると、生産性に大きく影響しますね。相手の顔が見えて、話にうなずいているかどうかを見るだけでも、コミュニケーションの質は高まります。
後藤:おっしゃる通りですね。フレキシブルワークを実現するためには、コミュニケーションのデジタル化が不可欠です。対面でのミーティングや電話から、Web会議の活用へと大幅に進みました。もう使わない日がないほど、身近になった方々も多いのではないでしょうか。メールやチャット、Webや動画、ソーシャルメディアなど、そして、今後はAR/VRや仮想空間でのミーティングやオンラインイベントなど、さらにコミュニケーションのデジタル化が進み、オンサイトでのコミュニケーションレベルにどれだけ近づけるか? オンサイト以上のことができるのか? など、検討が加速すると考えています。まさに「コミュニケーションのDX」が進む中で、テレワークやコミュニケーションのあり方を変革し、生産性を高めていくことができるような仕組みを支援していきたいと考えています。
テレワークの普及で働き方だけでなく、雇用のあり方も変化
田宮:「テレワークは難しい」と考えられてきたものが、通信技術やITの進歩にともなって、実現できるようになってきています。設計や動画編集などがそうですし、近年では、大学のオンライン授業、遠隔医療などがそうでしょう。対象のひろがり、業種のひろがりについては大きな期待を抱いています。
後藤:テレワークが可能になることで、働き方だけでなく、雇用のあり方も変わりつつあります。たとえば、アニメ制作やゲーム開発はリモート作業が難しいと思われていましたが、仮想GPUをご利用いただければ今では可能です。実際、弊社にも問い合わせが増えていて、地方企業がリモートワークの環境を整備して、都市部から人材を呼び込んだり、地方にいながらフリーランスの方が都市部の仕事を複数こなすこともできるようになり、企業にとって人材の確保に大きな効果をもたらしています。求人が 地域限定から日本全国へ、さらに海外も視野に変化してきています。
田宮:日本テレワーク協会でも、ワーケーション自治体協議会(ワーケーション・アライアンス・ジャパン)と連携して、自治体のワーケーションの取り組みを支援しています。ワーケーションというと「休暇を取りながら働く」といった趣旨でのみ捉えられてしまっていますが、この取り組みが目指しているもののひとつは、地域が特色を持って新しい街造りを進めることで、雇用を創出しようというものです。2019年から取り組みを進めていますが、すでに195を超える自治体が参加し、自治体と企業、教育機関などが連携しながら、その街にあった事業の創出、イノベーションを起こすさまざまな活動が展開されています。
後藤:ワーケーションはどう定義されているのですか。
田宮:「テレワークを活用し、普段の職場から離れ、リゾート地等の地域で、普段の仕事を継続しつつ、その地域ならではの活動を行うこと」です。もともとは、ワークとバケーションの造語なのですが、日本の実情に合わせて、必ずしもバケーションだけではないさまざまな取り組みを各地域で行なうことを提案しています。これは「日本型ワーケーション」というべき取り組みです。
求められる「テレワーク2.0」の発想と「日本型ワーケーション」の推進
後藤:日本型ワーケーションの事例にはどんなものがありますか。
田宮:長野県では、自治体、信州大学、軽井沢のリゾート施設と企業らが連携して、温泉や地域観光を組み合わせたワーケーションを実践しています。また、徳島県神山町では産官学が連携して地方創生プログラムを推進し、その組織体に参加した中高生がさまざまな知見をもとに企業への就業に生かしています。そうした成功事例がさまざまな地域で生まれてきています。ワーケーションと聞くと「Work(働く)」に「Vacation(休暇)」を組合せたイメージがありますが、視点を変えて、「Inovation(イノベーション)」「Collaboration(コラボレーション)」「Communication(コミュニケーション)」の「ation」を「Work」に足すことで、「働く」を起点とした「地域型のテレワーク」として、日本型ワーケーション(Workation)の実現が好ましいのではないかと考えています。
後藤:日本型ワーケーションは地方創生にもつながりますね。昨年急激に実践が進んだテレワークですが、すでに出勤ができない在宅勤務者向けの遅い環境の時代ではなくなったと感じています。実施率を見て導入しようかどうか判断するといった段階も終わりつつあると感じます。今求められているのは、組織変更やプライベートな事情など、さまざまな変化に対応が可能で、場所を選ばずにいつでもどこでも生産性を高く保てるテレワーク環境です。これからはじめる場合、もしくはすでに利用しているテレワークを新しいバージョンに上げて、「テレワーク2.0」として、新しい活用のあり方を提案、実践していくことが重要です。そのなかで、日本ならではのツールの使い方や協業のかたち、ユースケースを多くの方々と一緒に広げていきたいと考えています。
田宮:ワーケーションが目指しているのはテレワークの普及だけではありません。テレワークを当たり前にこなしながら、地域の中でどのように働き、新しい関わり、地域との関係作りをどう進めていくかも問われています。私の知人が軽井沢に移住して必要なときにだけ新幹線で都内に通勤するというスタイルを続けています。あいた時間で農作物を育てたり、喫茶店を開いて地元の人と交流したりしていました。そうした個人の柔軟な働き方に対応するように、企業もオフィスを再定義しはじめています。就業規則や就業意識は欧米とは異なりますから、欧米のリモートワークやテレワークの考え方をそのまま採用するのではなく、日本の文化にあったテレワークのあり方を考えていくことが大切です。そのひとつの方向性が日本型ワーケーションです。
後藤:働く方や学ぶ方が、場所や時間に縛られない、「フレキシブルワーク」を選択する時代がきています。そこから、さらなる新たな取り組みへと進化が求められています。NVIDIAはテクノロジーを通して、日本型ワーケーションの取り組みをはじめ、さまざまな企業や団体、学校などの取り組みを支援して参ります。
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