子ども用の自作PC「Kano」が、Windows対応のノートPCになって帰ってきた理由
シリコンヴァレーの夢想家たちは、あらゆる子どもがノートPCを抱えている世界を長いこと思い描いてきた。理屈の上ではうまくいきそうな話だが、実現はかなり難しいことがわかっている。
財政難の学校に販売できるほど低価格なPCでなければならないうえ、子どもという目移りしやすいことで有名な客層の注意を引くソフトウェアも必要だからだ。
教育市場には、スマートトイやロボット、アプリのほか、子どもたちをSTEAM学習関連の活動に積極的に参加させるための商品が溢れている。とはいえ、Kanoほどの成功を収めた企業はほとんどない。
よりパワフルに、より速く
Kanoはもともと、「Raspberry Pi」をベースにした、子どもでも組み立てられるDIYコンピューターキットを売り出していた。しかし、新たにマイクロソフトと提携したおかげで、Kanoは教育市場向けに低価格かつ高性能でWindowsも搭載した「Kano PC」を新たに発表した[編註:販売地域には日本も含まれている]。
修理もできるKano PCは新たな特徴を備えながら、カラフルで子どもたちが使いやすく、一部は組み立て式PCという従来の機種の魅力も受け継いでいる。
Kanoの最高経営責任者(CEO)アレックス・クラインは、Raspberry Piを採用しなかったのは現実的な選択だったと説明する。「学校はすでにWindowsにかなり投資していますから」と、クラインは言う。「子どもたちは『フォートナイト』で遊びたがっていますし、先生たちには『Microsoft Office』が必要です」
さらに速度の問題もある。Raspberry Piのコンピューターは低価格で順応性もあるが、教室で最も高性能なプロセッサーであることはまずない。
子どもたちや教師たちが頻繁に閲覧しなければならないウェブサイトや使用しなければならないオンラインツールは、大容量の「JavaScript」を使うので、Raspberry Piに搭載されているようなあまり処理能力が高くないチップだと、データの読み込みが遅くなってしまうのだ。Kanoのかつての機種と新しいKano PCとでは、読み込み時間の差は「歴然としています」と、クラインは話す。
マイクロソフトからの出資もKanoのビジネスにいい影響を与えている。最近、教育市場で「iPad」や「Chromebook」と競争を続けているマイクロソフトは、今回の提携によってWindowsを学校に導入してもらう新たな方法を得たことになる。
進化するPCと、変わらぬ理念
クラインは新しいKano PCについて、Kanoのコンピューターキットが生まれるきっかけとなったメイカームーヴメントに背を向けるものではないとする。むしろ彼は、これが「メイカームーヴメントの倫理とマイクロソフトのリーチとパワーの融合」だと考えている。
Kanoがコンピューターキットを販売し始めた13年、『WIRED』US版はKanoの製品を「子どもたちがコンピューターを自作できる期待にかなうキット」だと評した。