ニュース 何百時間も連続して使えるバッテリーは実現可能か? リチウムイオン電池の進化と課題
ILLUSTRATION: ELENA LACEY
バッテリー持続時間を次のレヴェルへと引き上げると同時に、人々の眉をいくらかひそめさせるような製品が、このほど開催された「CES 2022」で発表された。それは連続300時間も使えると謳うHyperXのヘッドフォンだった。リチウムシリコンバッテリーの登場で、EVは大きく進化する? いまも続く技術革新の行方今春発売予定のこのワイヤレスゲーミングヘッドセットはHyperXの「Cloud Alpha Wireless」で、1回の充電で300時間の連続使用ができるという。1回の充電で30時間使える従来モデル「Cloud II Wireless」よりはるかに長い。バッテリー持続時間が短期間で10倍になるような話は、消費者向けのデジタル製品ではまず聞いたことがない。どのようにバッテリーを大幅に改良したのかについてHyperXは、バッテリーと半導体技術の組み合わせと、搭載しているデュアルチャンバー技術とドライヴァーを1,500 mAhのリチウムポリマー電池に対応できるようアップデートしたという点以外に、詳細を公表しなかった。「HyperXの新しいゲーミングヘッドフォンはバッテリーが300時間もつが、いったいどうやって可能になったのかわからない」──。まるで“無限”に使えるかのように謳っているHyperXのヘッドフォンについて、ギズモードUS版はそんな見出しの記事を公開している。CES 2022で常識はずれのバッテリー持続時間を謳ったのはHyperXだけではない。テクニクスの最新のワイヤレスヘッドフォンは、1回の充電で50時間使えるという。半導体メーカーのAMDは最新の「Ryzen」チップにより、ノートPCのバッテリーが24時間もつようになると発表した。電気自動車(EV)を手がける自動車メーカーも参戦している。メルセデス・ベンツのコンセプトカー「VISION EQXX」は、1回の充電で600マイル(約966キロ)以上の航続距離を実現するという。
長時間もつバッテリーはつくれるか
いずれの製品もまだ発売前なので、宣伝通りの性能になっているかどうかはわからない。超高効率のプロセッサーや低電力モードの搭載、そしてシリコンアノード(負極)といった最新技術の力を借りたことで、一般消費者向け製品のバッテリー持続時間は長くなっていると専門家は言う。とはいえ、それで10倍も持続時間が長くなるわけではない。従来のリチウムイオン電池はエネルギー密度の上限があり、例年ひと桁%ずつ性能が向上している。だが、エネルギー密度の上限を上げることにはデメリットもある。「バッテリーは少しずつよくなっています。ただ、エネルギー密度を上げる場合、通常はサイクル数(充電から放電までの流れをを1サイクルとした場合の回数)とのトレードオフが発生します」と、アルゴンヌ国立研究所傘下でエネルギー貯蔵科学を共同研究しているエネルギー貯蔵研究共同センターのディレクターのヴェンカット・スリニヴァサンは説明する。「大手メーカーはバッテリー性能の数値目標を設定しています。例えば、2~3年は製品が使えるよう500回の充電が可能なバッテリーが必要、といったことです。しかし、より小規模なメーカーは、2年ももたないことを承知で持続時間の長いバッテリーを選ぶかもしれません」近年の科学技術者の多くと同じようにスリニヴァサンもまた、シリコンアノード技術の発展によりバッテリーの持続時間を伸ばせると前向きに考えている。スリニヴァサンが助言している会社のひとつであるEnovixは、同社が競合他社との差異化になると期待するシリコンアノードを採用したバッテリーの新しいセル構造を開発した。
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