「FFXIV」吉田氏&祖堅氏Gamescomインタビュー
Gamescomではファンをいかにエキサイトさせるかを学べる
――まずは、今回のGamescomの印象を教えていただけますか。
吉田氏: それが、ほぼインタビューブースから出ていないので、会場全体の雰囲気は、このインタビューの後ようやく見に行くことができるんです。ただ昨日だけでも、人の入りが爆発的にすごいなと思いました。まだ設営中の各社のブースを見ても、ゲーマーに楽しんでもらうために、ゲームの見せ方だったりをすごく工夫していて。Gamescomは遊んでくれる人たちをどうエキサイトさせるかというところにフォーカスされているので、見習うべきところが年々増えていっていると感じました。祖堅は今回が初めてだよね?
祖堅氏: そうですね。E3と比べて規模が大きいなと。事前の憶測とかリーク情報なんかは全然なくて、ここへ来て初めてわかることが結構多いから、この会場に足を運ぶこと自体が楽しいというイベントになっていますね。僕らも楽しいです。
吉田氏: 来る価値がありますね。
祖堅氏: 空き時間に、Blizzardのグッズショップに行ったりしています(笑)。
吉田氏: 2人で行って、「やべぇ、ディアブロのTシャツかっけー」みたいな(笑)。唯一行ったのそこだもんね。
祖堅氏: ほかにはどこも行けてないです。
――吉田さんにとってというか、ゲーム開発者にとって、Gamescomはどういう位置づけになるんですか?
吉田氏: 多分、「FFXIV」と、違うプロジェクトでは、ちょっと意味合いが変わるかなとは思います。E3がアメリカのプレーヤーさんに向けた新情報の発信だったり、コミュニケーションの場だとすると、「FFXIV」にとってのGamescomは単純にヨーロッパ全土の光の戦士たちが触れ合う場所だったり、メディアを通じてヨーロッパなりの新情報や、詳しい情報を出したりする場所だと思っています。確かにE3と開催日は近いですが、意味合いは全然違っています。E3は8年連続で行っていますが、今回Gamescomも8年目に突入しているので、そういう意味ではアメリカならE3、ヨーロッパならGamescomという感じではあります。ただ勢いでいえば圧倒的にGamescomの方が上だと思うので、もしかしたら今後大きな発表をする場所がE3ではなくこちらでという会社も増えてくるような気がします。
――個人的に注目しているブースはありますか?
祖堅氏: 会場がでかすぎて。どこから見ていいのかわからないなという感じですね。
吉田氏: 僕はE3と情報が変わらないところは別にいいかなと思っています。どちらかというと「フォートナイト」とか、巨大なコミュニティを抱えているところ。PC、コンソールあまり関係なくですが。どういう盛り上げ方をしているのだろうとか、ステージアクティビティでゲームじゃないことをされるケースが結構多くなってきたなと感じます。昔は単純に試遊台で遊んでくださいとか、ステージでやりましょうとかいうものでしたが、ゲーム内のエモートをステージ上でみんなでやろう、みたいな。現場に来たからこそ楽しめるというものにシフトしているのかなと思うところがあって、それを見たいです。「FFXIV」に限らず、ESLブースもそうですが、見ている人をゲームを使ってどうやってエキサイトさせるのかというところは日本は完全に遅れているので、そこは毎年興味があって見ています。
【「フォートナイト」のブース】ブース内にはスライダーや、ロケット型のロデオマシンなどが設置されていて、まるで遊園地――「フォートナイト」のブースはまるで遊園地でしたね。
吉田氏: そうらしいですね。スタッフから聞いたので「フォートナイト」だけはなんとしても自分の目で見なければ、とは思っています。
――今回のGamescomに合わせて、NVIDIAの新GPU「RTX」のシリーズが発表されました。今後PCの描画能力が上がっていくと、ゲームのグラフィックスも今後さらにリッチになっていくと思います。その場合、「FFXIV」のPC版にさらに上位のグラフィックス設定が加わる可能性はありますか?
吉田氏: 最近これをよく聞かれます。先日中国でも聞かれたので、世界中でちょっと注目のポイントなのかなと思っています。将来的に上げる可能性があるかというご質問の場合は、たぶん「イエス」で、可能性はあると思っています。ただ、今計画しているかというと、これは「ノー」です。なにも計画はないですし、マイルストーンの中にも入っていないです。
これは理由が明確にあります。新しいグラフィックスパイプラインや新しいグラフィックスの研究は、もちろん第5ディビジョンの中でもやっています。僕らも最新のゲーム作りから離れる訳にはいかないので、テストもしています。でも「FFXIV」には現状装備だけで2万アセットくらいあるんですが、これを新しいパイプラインに全部乗せ換えるとすると、果たしてどれだけのコストが必要なのかというと、あまり考えたくないレベルです。
「FFXIV」はPS3にも対応させるために、グラフィックスのテクノロジーパイプラインが今より2世代前のものなのです。今のパイプラインに合わせようとすると、ハイモデルが用意されているものに関しては、ハイモデルに置き換えていけばいいんですが、そうではないものもある。最初からコスト削減のためにローモデルで作っているものがたくさんあるので、それは全部ハイモデルに作り直さないと、せっかくグラフィックス性能が上がっているのに綺麗に見えないんです。
それだけのコストをかけて今やらないと、他との競争力がないかと言われると、少なくともMMOというジャンルの中ではまだ十分に競争力があるので、いま焦ってそれをやる必要がない。それに、そのGPUが搭載されているPCが、何割のプレーヤーに広がるんだろうというところも計算にいれないといけない。さらに、コンソールでも「FFXIV」をサービスしている以上、グラフィックスパイプラインが混在するのは絶対に避けたいんです。だとするとPCだけを見ているわけにはいかないので、例えばプレイステーション 4が次の世代に代わるというタイミングでなければ検討するのも難しいんです。今はとにかくどうやって今のアセットを効率よくたくさん作るかという所を伸ばすべきだなと考えています。
――グラフィックスの研究は、将来出るかもしれないPS5なども含めての研究ということなんですか?
吉田氏: スペックで考えているのではなく、この先のグラフィックスパイプラインのトレンドがどこへ行くかを研究しています。最低限これらが使えないと欧米と太刀打ちできないものとか。ちょうどCEDECでうちのスタッフがグラフィックスの講演もやっていますが、結構なレベルで研究もしています。ちゃんと研究しておけば、どんなスペックのハードウェアがでてきたとしても対応できるようになるので、スペックではなくテクノロジーベースで見ています。
――「FFXIV」はリアル寄りのグラフィックスなので、最新のグラフィックストレンドに対応しなければなりませんよね。トゥーンシェーディングのゲームはそこまでシビアではありませんが、そういう部分をうらやましいと思ったりしますか?
吉田氏: 「FF」をMMOにしようと決めたのは僕ではありませんが、引き継いだからには「FF」として胸を張って出せるようにしなければならないと思っています。他のゲームをうらやましいと思うことはないですね。僕らはハイエンドのゲームが好きで、そういうものをプレイしたい方なので、どちらかというともう少しボーンを使って、もう少し滑らかに動かしてあげたいなとか、もう少し長い髪を揺らしてあげたいなと、どちらかというとそういう風に思います。
ただそれをやったら1パッチに入れられる装備が3分の2くらいになっちゃうだろうなとか。ボリュームもクオリティの1つだから、それを落とすわけにもいかないので、痛しかゆしだなと。ただ研究は続けていて、いかにハイレベルなアセットを効率よく作るかも今後の課題なので。そこがかみ合ったタイミングが来れば、もしかしたらグラフィックスのレベルを上げることもあるかなと。
――吉田さんは取締役になられたわけですが、職責が重くなってくるとだんだんと「FFXIV」に関わることができる時間が減ってくるのではないかと心配してしまうんですが。
吉田氏: 僕はもともと正社員になる前から、本来正社員がやるような仕事をしていました。第5ディビジョンのディビジョンエグゼクティブになる前から、超巨大な「FFXIV」と、弘道さん(田中弘道氏)が退社されてから「『FFXI』の面倒もよろしく」と言われて、「XI」の方も見ていましたし、それがそのまま第5ビジネスディビジョンに後からなった感じです。その後「ビルダーズ」なんかも作りましたが。執行役員になっても結局のところ全スクウェア・エニックスの開発相談窓口みたいなことはやっていましたし、社長と話をする機会も多かったので。執行役員になった時にも、執行役員会議が月イチで増えたくらいで、取締役でも取締役会議が1つ増えたくらいで、やっていることはあまり変わらないです。少なくとも「FFXIV」に割いている時間は減ってはいないです。
――よく、管理職になってしまうと現場から離れてしまって……というような話がサラリーマンの逸話としてあるじゃないですか。
祖堅氏: うちの会社そういうのないっすよ。
吉田氏: ないよね。
祖堅氏: 偉くなったからといって現場を離れろというのはないです。両方やれ、です。
吉田氏: 僕が取締役をお受けする条件として、「FFXIV」の業務を減らせとかライブストリームはやるなということであれば受けませんという話をしたら、何も変えなくていいということを言ってもらったので、じゃあいいですよと。だから変わっていないです。確かに仕事量は少し増えているかもしれないけれど、もともとやっていたレベルの仕事だと思っていただけると。肩書が後からついてくるタイプなので、あまり気にしなくても大丈夫だと思います。
――それを聞いて安心しました。
吉田氏: どちらかというと「FFXIV」が巨大化しすぎて、把握するのが本当にきついなという。自分で蒔いた種でもあるんですが。
――今どのくらいの人数がいるんですか?
吉田氏: 今はすごい勢いで巨大なものを作らなくてはいけない時期でもあるので、「FFXIV」の開発に関わっているだけでもだいたい常時350人から、繁忙期は500人弱くらいになります。運営チームを入れると多分650人までいっちゃいます。
それとゲームの規模が恐ろしく上がっているので、「エウレカ」の仕様を全把握したうえで、楽器演奏の仕様も、ハウジングのロールプレイは今僕の肝いりでやっているのでそちらにシフトしていますが、当然レイドのバランス調整にも参加しなくてはいけないし、この先に作っているまだ発表していない全く新しいシステムなどもあって、それらも当然僕が1番仕様を理解していないといけないし。最初はレイドとインスタンスダンジョンとアライアンスレイドとギャザクラを話せていればよかったのに、そちらの方がやばいです(笑)。