カナダに電気電子機器を輸出する場合に、EU RoHS指令に適合していればよいでしょうか。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
カナダはアメリカ、メキシコの北米3国の米国・メキシコ・カナダ協定(the Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada:USMCA)が2020年7月1日に発効しています。この協定は北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement :NAFTA)をトランプ前大統領が否定しことによります。NAFTAにより、メキシコで低コストで生産したものが自由にアメリカに入り、アメリカの川上産業に影響を与えているといったことも背景にあります。NAFTAは現在も有効ですが、優遇措置の適用がトランプ前大統領の意向で変わっています。USMCAの規定は農産物・工業製品・労働条件・電子商取引などを含む幅広い範囲を含んでおり、化学品も対象になっています。関税などの優遇措置は別として、カナダではTSCA Inventory(アメリカの既存物質)から非国内物質リスト(NDSL)を作成し、カナダの新規物質登録であってもアメリカの既存物質であればカナダ既存物質リスト(DSL)への登録を優遇しています。このように技術的事項は共通性があります。USMCAやNAFTAによる協定の下でも、アメリカ法がそのまま適用されるものではなく、カナダ法で規制されます。カナダはイギリスの影響でコモンローの法体系で、判例が重視されています。また、連邦法と、州制度による州法を採用しているので、州によって法律の内容や運用が異なります。
カナダの法令、法律案、州法、判例などが、日本の国会図書館の日本語のWebページ(*1)からリンクされています。判例もあります。
1 CEPA
カナダの化学品の基本規制法が連邦法の「カナダ環境保護法」(“Canadian Environmental Protection Act, 1999:CEPA”)(*2)です。日本企業にとっての基本的対応条項は以下になります。
CEPAでは既存物質リスト(Domestic Substances List :DSL)に収載されていない物質は、届出しない限り製造、輸入が制限されます。新規物質は登録(届出)義務となりますが、成形品からの意図的放出以外は含有物質の登録義務はありません。
CEPAは、DSLのなかで有害性がある物質の有害物質リスト(Schedule 1: List of Toxic Substances)があります。ある物質が、その物質に関して本項が適用される旨の表示を付して国内物質リストに指定されている場合は、何人も、その物質に関してリスト(Schedule 1)に表示されている重要な新規の活動のためにその物質を使用、製造又は輸入してはならない。この指定はリスト収載物質のすべてについて規定されていませんが、「管理対象有害物質(List of toxic substances managed under Canadian Environmental Protection Act)(*3)で確認できます。例えば、鉛についての評価はまとめられ、詳細な“Risk Management Strategy for Lead”(*4)があります。このなかで、塗料への添加などの制限される用途などが記載されています。鉛に関連する法規制も記載されています。
TSCAの第5条でInventory 収載物質について特定用途しか認めない「重要新規利用規則(SNUR)」があります。同様の規定がCEPAでは第80条にあります。
「著しく新しい活動(significant new activity)」には、物質に関し以下の結果をもたらすか又は結果をもたらす可能性のあるあらゆる活動が含まれる。
(a) 環境大臣の見解で、以前に環境中に投入された又は環境中に放出された物質の量又は濃度よりも著しく大きい量又は濃度での物質の環境中への投入又は放出がある。又は(b) 物質の環境への侵入もしくは放出、又は物質へのばく露もしくは環境の潜在的ばく露が、環境大臣の見解では、物質が以前に環境中に侵入もしくは環境中に放出された方法及び状況、又は物質への以前のばく露もしくは環境の潜在的ばく露とは著しく異なる方法及び状況である。
「著しく新しい活動」に特定された物質は、製造、輸入、使用が制限されます。
第81条 (1) 物質が国内物質リストに記載されておらず、かつ(2)が適用されない場合は、何人も、以下の場合を除き、当該物質を製造又は輸入してはならない。(a) 所定の日までに、所定の手数料を添えて、その物質に関する所定の情報が環境大臣に提供されていること
2 有害製品法
有害製品法(Hazardous Products Act)(*5)では、成形品(定義はTSCAやREACH規則と同じ)も対象として、使用制限などの対象物質としてSCHEDULE 2にCMR物質などを指定しています。規制目的は日本の労安法と同じですが、労働者保護が目的に入っています。電気電子製品を使用するときに、有害化学物質のばく露を防止するものです。
3 化学品の分類
化学品は、“WHMIS 2015 - New Hazardous Products Regulations Requirements”(*6)でGHS基準での分類、ラベル表示とSDSが規定されています。WHMIS 2015はアメリカの基準と同じで、共通となっています。2020年12月10日にGHS第7版に適合させると公表(*7)しています。
4 オンタリオ州法 WEEE
オンタリオ州法の資源回収および循環経済法2016(RESOURCE RECOVERY AND CIRCULAR ECONOMY ACT, 2016)の下位規定の電気電子機器令(ELECTRICAL AND ELECTRONIC EQUIPMENTONTARIO REGULATION 522/20)(*8)によるEU WEEE指令に類似した規制があります。対象となる電気電子機器の定義は以下です。(a)定格電圧が、交流の場合は1,000ボルト、直流の場合は1,500ボルトを超えないように設計されている。(b)重量が250キログラム以下である。(c)事前に定義された専用の場所で、建物または構造物の一部として恒久的に使用することを意図したものではない。対象カテゴリは、別表1で15分類となっています。
情報技術、 通信 、 オーディオビジュアル 機器 1.コンピュータ 2.プリンタ(デスクトップおよび床立ち上げ)、プリンタカートリッジを含む 3.ビデオゲームデバイス 4.携帯電話を含む電話 5. 表示デバイス 6. ラジオおよびステレオ(市販の車両ステレオを含む) 7.ヘッドフォン 8.スピーカー 9.カメラ、防犯カメラを含む 10.ビデオレコーダー 11.オーディオまたはビジュアル録画機器を備えたドローン 12.情報技術、通信、およびオーディオビジュアル機器の機能をサポートするために使用される周辺機器やケーブル、充電機器を含む 13.ハード ドライブなど、別売の情報技術、通信、オーディオ ビジュアル機器の部品 14.ハンドヘルドPOS端末またはデバイス 15.楽器やオーディオ録音機器
照明1.白熱、蛍光、ハロゲン、発光ダイオード(LED)および高強度放電(HID)ランプなどの電球、チューブ、ランプ
生産者は、別表1のカテゴリ毎に収集システムを確立し、運営する義務があります。
British Columbia州では、環境マネジメント法のリサイクル規則(Environmental Management Act RECYCLING REGULATION B.C. Reg. 162/2020)(*9)により、電気電子機器も管理されています。環境管理法では有害廃棄物管理を義務化していますが、「有害」の定義には化学物質は明記されていません。
リサイクル規則のなかで、生産者は、拡大生産者計画を策定し、認定を得て実施する義務を課しています。電気電子機器の対象製品は別表3(*10)にリストされています。このリサイクル規則は、別表4にタイヤ、別表5に包装及び紙製品などのリサイクル義務を明確にしています。
環境法、リサイクル法は州法で明細化されていまが、有害化学物質規制は有害廃棄物の規制で止まっており、EU RoHS指令に相当する規則は確認できませんでした。 カナダとアメリカの規制基準はほぼ同じですが、若干の差異があります。