絶好調の米ウォルマート アマゾン対抗サービスに密着
売上高5144億ドル(56兆2570億円、2019年1月期)、従業員数220万超。世界最大の小売企業である米ウォルマートの業績が好調だ。けん引役は米国でのEC(電子商取引)事業。19年8~10月期は売上高が前年同期比4割増となり、株価は上場来高値を更新した。米アマゾン・ドット・コムをはじめとするEC企業の成長でやられっぱなしだった小売業だが、世界で1万以上の店舗を持つ小売りの巨人が、アマゾン対抗の解を見つけつつある。
同社のEC事業をけん引する「オンライン・グローサリー・ピックアップ(OGP)」の現場からリポートする。
19年12月初旬、米国南部アーカンソー州にある食品スーパー「ウォルマート ネイバーフッドマーケット」を訪ねた。ウォルマート本社から車で20分ほどの町、ピー・リッジにある店舗だ。午前10時頃の店内は、買い物をする人はまばらだったが、ロゴの入ったベストを着た複数の店員たちが、青いボックスを8つ乗せたカートを押しながら、棚から商品を取り、次々とボックスに入れていた。
これは、ウォルマートのEC事業の成長をけん引している「オンライン・グローサリー・ピックアップ(OGP)」向けの作業だ。OGPは、ネットで注文して店で受け取るサービス。客はあらかじめ専用アプリで取りに行く店を選び、どの時間帯に行くかを選択。通常のECと同じように、アプリ内で牛乳や野菜など商品を選んで会計をしておく。指定した時間帯になり、車を店のピックアップ専用の駐車スペースに止めると店員がトランクまで持ってきてくれる仕組みだ。
アプリ経由で注文された商品を店でピックアップする担当者を、ウォルマートは「パーソナルショッパー」と呼んでいる。店ではどんな作業をしているのか。この日、ピー・リッジ店のパーソナルショッパーの1人、ペイティンさんの作業を見せてもらった。
ペイティンさんはこの日、日用品や常温保存の食品を担当。まずピックアップした商品を保管する部屋を出発し、カートに青いボックスを8個乗せた。そのうち、6個の青いボックスに、オーダー情報が入っているバーコードのラベルを張っていく。残りの2個は「入りきらなくなった商品を入れる」(ペイティンさん)ため、空にしておく。
手に専用端末を持ち、ポリ袋やテープなどをひっかけたカートを押して、保管庫から一番遠い棚へ。端末には、商品の写真と置いてある棚の番号、注文数、商品名やサイズなどが表示されている。
端末に表示された指示に従って「コカ・コーラ チェリー味」がある棚から商品を取り、バーコードをスキャン。プラスチックバッグに入れた後、青いボックスのバーコードをスキャンしてボックスに入れる。終わると端末には次の商品が表示されるので、カートを進めながら棚から探し、またバーコードをスキャンしてボックスに入れる作業を繰り返す。
商品を見つけてから青いボックスに入れるまでは5秒ほど。間違えて同じものを2個スキャンしたときは、アラートが出て、やり直していた。
「何かお探しですか? バターはこちらです」。商品を集める途中の通路ですれ違った客が何かを探しているようだと気づくと、声をかけて、その棚まで案内。接客も怠らなかった。
時々、棚の前で立ち止まり、写真と棚の商品を見比べている。「サイズがいろいろあるから」。用心深く確認して、正しいものをピックアップする。店内の商品の位置が考慮された順番で商品が表示され、進行方向に合わせてピックアップできるので、効率的だ。約30分かけて50アイテムをかごに入れ、保管庫に戻った。
保管庫は、もともとサービスカウンターなどがあった場所を改装してつくったという。駐車場につながるドアがあり、顧客が到着したらそこからピックアップしたものを持って行く。棚に加えて冷蔵庫や冷凍庫が並び、冷凍食品などが置かれている。
保管庫には駐車場につながるドアがある
ピー・リッジ店でOGPを始めたのは2019年3月。OGPのオーダーの70~80%がリピーターによるものだという。一般的に、規格のある日用品などに比べて、野菜や果物などの生鮮品は自分で手に取って選びたいという需要があり、それがネットスーパーの普及の壁になっているという指摘もある。
店長のジェシカ・カーク氏は「生鮮品は平均的な大きさのものを取るようにしている」と話す。ただ、リピーターの中には、「例えばバナナで、もっとシュガースポットのあるのが好きだとか、その逆だとか、そういったことを伝えてくる場合がある」(カーク氏)。そうした好みは覚えておき、次に生かすという。カーク氏は「それがパーソナルショッパー」と胸を張った。
(日経ビジネス 庄司容子)
[日経ビジネス電子版 2020年1月7日の記事を再構成]