世界における5G動向と6Gに向けた取り組み ~ポストコロナの社会に向けて InfoComニューズレターの顧客情報の保護について
5Gサービスの展開・6Gの研究開発
GSMAのレポート(The Mobile Economy 2021)によると、57カ国で144の5G商用ネットワークが運用されており(2021年1月末時点)、2020年にラテンアメリカおよびサハラ以南のアフリカでサービスが開始したことで、現在、世界のすべての地域で5Gが利用可能となっている。世界の5G展開は、新型コロナウイルスの影響で一旦停滞したものの、ロックダウンを契機とした通信需要の急増や非対面のソリューション需要(在宅勤務、遠隔教育、遠隔医療など)の顕在化を受けて、今後の加速が期待される。また、5Gの展開を機に、通信事業者による大手クラウド事業者との提携や、ネットワークのオープン化(Open RAN)・仮想化の取り組みが進展している。
【図1】商用5Gサービス展開状況(出典:GSMA「The Mobile Economy 2021」)
一方で、2028~2030年に実用化が見込まれるBeyond 5G(6G)については、主要国・地域における研究開発に加えて、近時、政府主導で国際連携を図る動きが活発化している。日米両国は、2021年4月に「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」を立ち上げ、5Gおよび6G(Beyond 5G)を含む安全なネットワーク、先端的なICTの研究開発などに、共同で合計45億米ドル(約4,936億円*[1])を投資することに合意した。また、米国と韓国は、2021年5月に、5G、Open RAN、次世代ネットワーク(6G)などの新技術において、イノベーションを先導することに合意した。
本稿では、本誌2020年4月号の記事「世界における5G動向と6Gに向けた取り組み」を踏まえて、日本で5Gサービスが開始された2020年3月以降の動きを中心に、ポストコロナの社会に向けた、世界における5Gおよび6Gの取り組みを概観する。
5G動向
GSMAのレポートによると、現在の世界における全モバイル接続の内、5Gは4%程度にとどまり、約60%を占める4Gが主流であるが、2025年には5Gの割合は20%を超え、米国、韓国、中国などにおいては約50%に増加するとみられている。また、世界第2位のモバイル市場であるインドでは、2021年5月に、政府が通信事業者による5Gのトライアルを承認したところである。5Gは、コンシューマー分野ではビデオストリーミングやクラウドゲームなど、法人分野では製造など多様な産業で活用されているが、5Gスタンドアローン(SA)導入後の5Gの特性(低遅延、スライシングなど)を活かしたユースケースの拡充が期待される。主要国・地域における5Gの展開状況は以下のとおりである。
米国
T-Mobile USは、2020年8月に、世界初の全国的な5G SAネットワークを立ち上げたと発表するなど5Gの可用性で先行し、2020年5月にIntel、NASAと設立した「5G Open Innovation Lab」において、新興企業との協力による5Gのユースケース創出に取り組んでいる。VerizonおよびAT&Tは、ミリ波周波数の利用を重視し、通信需要の高いエリア(スタジアムなど)への5G配備や大手クラウド事業者(Amazon Web Services (AWS)、Microsoft、Google)との提携によるMEC(Multi-access Edge Computing)を活用した低遅延サービス提供で差別化を図る。また、両社は、最近のオークションで獲得したミッドバンド周波数を利用したカバレッジの拡大を計画している。新規参入のDishは、AWSなどと協力し、米国初のクラウドネイティブなOpen RANベースの5G SAネットワークの構築を進めている。
韓国
デジタル経済への移行加速に向けて、韓国が2020年7月に発表した「デジタルニューディール」は、5GとAIの産業への統合拡大(デジタルコンテンツ、スマート工場など)や5GとAI活用によるスマート政府の実現などを目指すとしている。同月、SK Telecom、KT、LG Uplusの3社は、全国の5Gインフラストラクチャ強化のため、2022年までに合計約25.7兆ウォン(約2.4兆円*[2])を投資することに合意した。また、LG Uplusは、2020年9月に、KDDIなどと共同で5Gベースの高品質なAR・VRコンテンツ制作を支援する「Global XR Content Telco Alliance」を設立した。SK Telecomは、2020年11月に、Deutsche Telekomとの5G技術に関する合弁会社の設立、同年12月に、AWSとの協力による韓国初の5G MECサービスの開始を発表した。KTは、5G活用によるスマート工場などに注力し、2021年7月に、韓国初の5G SA商用サービスを開始したと報じられている。
欧州
European 5G Observatoryによると、2021年6月末時点で、欧州連合(EU)加盟27カ国中25カ国と英国が5Gサービスを提供している。また、EU域内共通の5G向け優先帯域(700MHz帯、3.6GHz帯、26GHz帯)の内、ミリ波周波数(26GHz帯)の割当ては現状、一部の国にとどまっている。2020年、欧州ではパンデミックの影響により多くの国で5G周波数オークションが延期となったが、フランスでは5カ月遅れでオークションを実施の上、2020年11月より順次5Gサービスが開始された。Orangeは、5Gユースケース開発を目的に、2021年に欧州で9つの研究所を立ち上げる予定である。欧州委員会(EC)は、2021年3月発表の「Digital Compass」(欧州のデジタル変革成功に向けたビジョン)において、2030年までに、すべての人口密集地域を5Gでカバーすることを提案している。英国政府は、5Gサプライチェーンの多様化戦略の下、テストベッド構築および研究開発資金拠出を通じて、Open RANの取り組みを主導している。さらに、Deutsche Telekom、Orange、Telefonica、VodafoneおよびTelecom Italia(TIM)は、5G時代におけるOpen RANの取り組みの共同推進を表明している。
中国
工業・情報化部(MIIT)によると、中国では、通信事業者間の大規模なインフラ共有も活用の上、これまでに約91.6万の5G基地局が建設されている。GSMAのレポートによると、中国では5Gネットワークの拡大および5Gデバイスの供給増加により、2020年に2億以上の5G接続が追加され、世界の5G接続におけるシェアは87%となったという。当初から中国では5G SAによるネットワーク構築が重視され、産業や医療での5Gの利用が進んでおり、China Unicom(中国聯通)、China Mobile(中国移動)、China Telecom(中国電信)は、Huawei(華為技術)などと共同で2021年2月に、5Gネットワークスライシングのオープンラボを設立した。さらに、China Unicomは、2022年の北京冬季オリンピックで、5Gミリ波を利用した大規模なトライアルを計画している。
日本
NTTドコモ、KDDIおよびソフトバンクは2020年3月に、楽天モバイルは2020年9月(2020年6月から延期)に5G商用サービスを開始した。総務省は、2020年12月公表の「ICTインフラ地域展開マスタープラン3.0」において、各通信事業者の取り組み強化を踏まえて、2023年度末までに約28万局(開設計画の4倍)以上の5G基地局整備を目指すとしている。NTTドコモは、2021年2月に、Open RANの海外展開を目的とした「5GオープンRANエコシステム」をグローバルベンダー12社と協創すると発表する一方、楽天モバイルは、5G対応の完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークのプラットフォーム(RCP)の海外展開を進めている。KDDIは、AWSとの連携による5Gの低遅延サービス創出に取り組んでおり、ソフトバンクは、2021年6月に参画企業などと5Gソリューションの商用化を目指す「ソフトバンク5Gコンソーシアム」を設立した。
6Gに向けた取り組み
国際電気通信連合の無線通信部門(ITU-R)は、2030年までに6Gビジョンを完成させ、3GPPなどの標準化団体を通じて6Gの技術要件などを策定する予定である。6Gにおいては、5Gの特性(高速・大容量、低遅延、多数同時接続)の高度化に加えて、新たな機能(超低消費電力、超安全・信頼性、自律性、拡張性など)が求められ、必要となる技術について、主要国・地域で研究開発が進められている。ITU-Rの6G Vision Groupなどの議長を担うSamsungは2021年6月、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)と共同で、6Gで利用が想定されるテラヘルツ帯域での無線通信のプロトタイプを実証したと発表した。主要国・地域における6Gに向けた取り組み状況は以下のとおりである。
米国
2020年3月に、5G(Beyond 5G)における安全性確保を目的とした「Secure 5G and Beyond Act of 2020」が成立した。バイデン政権発足後、同盟国(日本、韓国、英国)との6Gに係る連携の動きがみられ、2021年6月には、英国との「新大西洋憲章」に基づく連携強化の一環として、6Gなどの未来の技術に関する協力を含む様々な技術分野での関係を深めることで英国と合意している。また、ATIS(電気通信標準化連合)は、2020年10月に、6Gにおける北米のモバイル技術のリーダーシップを目指す「Next G Alliance」を発足した。北米の通信事業者、ベンダーおよびハイテク企業(Google、Apple、Facebook、Microsoft)などで構成される同アライアンスは、2021年3月に6Gロードマップの作業に着手し、2021年9月にNortheastern大学などとの共催で、北米における6Gを議論する国際会議「6G Symposium Fall」を予定している。
韓国
2021年6月に、科学技術情報通信部は、6G技術のグローバルリーダーになるための「6G研究開発実行計画」を発表した。同計画は、(1)次世代の主要な独自技術の確保、(2)国際標準・特許における優位性の獲得、(3)6G研究・産業基盤の構築を掲げ、特に、6つの重点分野における10の主要戦略技術(低軌道(LEO)衛星、超精密ネットワークなど)に対し、2025年までに合計2,200億ウォン(約209億円*[2])を投資するとしている。また、韓国は、2025年までに、政府主導で6G技術の研究を行っている米国国立科学財団(NSF)、中国情報通信研究院(CAICT)、フィンランドのOulu大学などと、6Gのコア技術や6G周波数に関する共同研究を推進する。
欧州
ECは、「Horizon Europe」プログラム(Smart Networks and Services)の一環として、2027年までの6Gの研究開発支援に9億ユーロ(約1,171億円*[3])を割り当てることとし、2021年1月以降に最初の9つのプロジェクト(約3年間)が開始された。その内、ECの6Gフラッグシップイニシアティブである「Hexa-X」は、欧州のベンダー(Nokia、Ericsson他)、通信事業者(Orange、Telefonica、TIM他)、研究機関・大学(Oulu大学他)などが連携し、国連のSDGs達成などに資する6Gの研究開発およびユースケース創出などに取り組む。英国では、2020年11月に、Surrey大学が、高度通信工学に焦点を当てた6Gイノベーションセンターを立ち上げた。ドイツ政府は、2021年4月に、2025年までに6G研究に約7億ユーロ(約911億円*[3])の資金を提供すると発表した。
【図2】Hexa-Xコンソーシアム(出典:Hexa-Xホームページ)
中国
中国ではMIITの下、中国の通信事業者、ベンダー、大学・研究機関を含むIMT-2030(6G)推進グループにおいて、2019年6月より6Gの開発が進められている。同グループは、2021年6月にホワイトペーパー(6G Vision and Candidate Technologies)をリリースし、6Gの候補ユースケース(没入型クラウドXR、ホログラフィック通信など)、10の6G候補技術などについて言及している。また、中国は、2020年11月に、テラヘルツ周波数を利用した通信などを検証するため、6G試験衛星を打ち上げた。China UnicomとZTE(中興通訊)は、2020年5月に、6G技術開発のために協力することで合意している。
日本
総務省は、2020年6月に、「Beyond 5G推進戦略」を公表し、研究開発戦略(2025年頃から順次要素技術を確立)、知財・標準化戦略(Beyond 5G必須特許シェア10%以上)および展開戦略(2030年度に44兆円の付加価値創出)を産学官の連携により推進するため、2020年12月に「Beyond 5G推進コンソーシアム」を設立した。同コンソーシアムは、国際連携を重視しており、2021年6月、Oulu大学主導の研究プログラム「6G Flagship」との間で、Beyond 5G(6G)に関する協力覚書に署名した。また、総務省は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)に公募型の研究開発基金を創設(300億円)するとともに、テストベッド等の共用施設・設備を整備(200億円)し、産学官連携によるBeyond 5Gの研究開発を促進している。
日本に期待される役割
新型コロナウイルスの感染拡大を経て、世界では社会のデジタル化とともに、持続可能で回復力のある社会の実現が改めて求められている。2021年3月には、EUのグリーンおよびデジタル変革を支援する「European Green Digital Coalition」(欧州グリーンデジタル連合)が、ICT企業26社(Deutsche Telekom、Telefonicaなど)により創設された。また、2021年6月開催の「世界デジタルサミット2021」において、総務省は、ポスト・ニューノーマル時代は「デジタル化」と「グリーン」が経済成長のカギとなり、その前提として高度なICTインフラの整備および維持が重要であると述べている。
日本政府は、「インフラシステム海外展開戦略2025」(2020年12月策定)において、デジタル化の基盤となる5Gネットワークの世界的な普及に貢献するため、日本における5Gの実用化の成果を海外展開するとともに、社会的課題解決に不可欠な次世代技術として、Beyond 5Gの開発や技術革新および社会実装を推進するとしている。
2025年の「大阪・関西万博」を、政府は「未来社会の実験場(People’s Living Lab)」というコンセプトで、新たな技術やシステムを実証する場と位置付けている。5Gを含めた情報通信インフラを会場に整備し、先進サービスを実装するとともに、「Beyond 5G readyショーケース」として日本の最先端技術を体感してもらうことを計画している。ポストコロナの社会に向けて、日本を起点に、革新的な技術やユースケースが世界に発信され、経済成長の原動力となり、社会的課題の解決につながることを期待したい。