EVの「充電難民」問題をデータで解説--充電インフラを増やしていくには - CNET Japan
2021年は、自動車メーカー各社が電気自動車(EV)をリリースし、EV普及元年とも呼べる年となった。アップルをはじめとしたソニーなどのIT企業もEV事業に乗り出し、特に車に興味のない方でも、そう遠くないうちにガソリン車がEVに変わる流れを感じていることだろう。
しかし、実際にガソリン車がEVに変わることで自分たちの生活がどう変化するかについては、情報が少ない。充電インフラが少ないのでEVユーザーが増えないという“にわとりが先かたまごが先か”という問題はよく目にするが、ガソリンスタンドなみに充電スタンドが増えれば、問題は解決するのだろうか。
実はそこには、“チャージするエネルギーがガソリンから電気に変わる”以上の要素が関係している。EVユーザー、充電インフラを設置する施設、地域自治体、EVに乗らない人も含めた、さまざまな立場からの考察が必要である。
筆者は、創業88年の自動車部品製造業の4代目としてCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)を見据え、2017年からEVに乗りはじめた。充電インフラの脆弱さを“自分ごと”として痛感し、充電サービスを立ち上げた者として当社データやアンケート調査の結果を元に、EVシフトの先にある真に持続可能な未来の実現について意見を記したい。
EV充電方法の違いと課題
ガソリン車の給油にあたる行為は、EVでは充電に相当する。充電方法は充電スピードで分別すると「普通充電」「急速充電」の2種類があるが、ユーザー中心に考えた人の動きで分別すると、「基礎充電」「経路充電」「目的地充電」の3つに分けられ、それぞれの特徴は下記図1の通りである。
図1現在、急ピッチで設置が進められている急速充電は、経路充電に相当する。一見、短時間で済む急速充電が増えればインフラ問題は解決するように思えるが、設置や維持費用の高額さや、EVのバッテリー劣化が早まる可能性を考えると、用途に応じた普通充電との使い分けが理想的となる。
そして筆者は、自らの体験から、インフラ普及においては普通か急速かという機能面より、人の流れやライフスタイルに沿った設置が重要であると考えている。充電という行為のみではなく、充電スタンドを探しやすくする充電前(Before the charger)、ユーザーにとっての使いやすさを重視した充電中(On the charger)、充電後(Beyond the charger)、においてEVだからこそ体感できる楽しさなど、一連のユーザー体験を考慮したサービス提供をしなければ、設置数が増えても利用者の満足度は上がらないだろう。
目的地充電と普及率
普通充電が効果を発揮するのが目的地充電だが、これは宿泊先のホテルやレジャー施設など、あらかじめ長時間駐車する場所に充電器を設置する考え方だ。
目的地充電は個人的な体験からも理にかなっているといえる。以前、軽井沢にEVで向かい、到着時に電欠手前の状態で役場の急速充電スポットへ向かったのだが、残念ながら既に先客が2台おり、諦めて不安な気持ちを抱えたままホテルに向かったことがある。
次の日予定先へ向かう前に、朝一で一番近いディーラーに行き何とか充電できたのだが、もし、ホテルに普通充電設備があれば出発時にはフル充電に近い状態で、タイムロスもなく気分良く出られたはずだ。
別に急速でも良いのではないかという意見もあるかもしれないが、急速充電の場合、ホテル側に30分で車両移動をする管理工数が必要になる。もし自分で充電するなら、せっかくホテルに到着しても30分車内に留まらなければならない、あるいは出発前に30分待つという、タイムロスが発生する。これから増えていくEVに対応するには、施設、ユーザー双方にとってメリットがあるのは普通充電といえるだろう。
しかし実際のところ、目的地充電の設置率は0.16%である。2025年に現在の4倍に増えるEVユーザーのニーズを満たそうとすると、単純計算で12.5万台の充電設備が必要(図2)となる。
図2基礎充電の現状--“充電難民”の存在
自宅や職場などに設置する充電設備は、基礎充電と呼ばれる。長時間駐車するという点では目的地充電と同じだが、“いつも同じ場所で” というルーティーンの考え方が加わる。
2021年8月、当社はEVユーザー向けのウェブサイト「EVSmart」と共同で、ウェブでEVユーザーアンケート調査を実施し、782人の回答を得た。
そこから東京都内で自宅に基礎充電設備のないユーザー数を試算したのだが、推定2万931台(図3)という、驚くべき数字が出た。
当社では、こうした状況にあるEVユーザーを“充電難民”と位置づけ、早急な解決に向けて開発や実証実験をすすめているが、かくいう筆者も充電難民である。
図3充電インフラが増えていくためには--1:施設のメリット
2021年、これだけEVシフトが叫ばれながら実は、充電スタンド数は減少した。現在国内にある充電スタンドの大半は、2010年代前半に国からの補助金を利用し設置されたものである。
今後増えるであろうEVに対応するため、とにかく数を増やすことを目的に設置されたもののEVユーザーは増えず、想定した稼働状況とならない設置箇所が出てきた。
屋外設置のEV充電スタンドの耐用年数は8~10年と言われており、利用率が少なく、コストも高い充電設備を維持し続けるのは施設にかなりの負担がかかる。
かといって、劣化してしまった充電設備を放置しておくわけにもいかず、各地で撤去が進んだ、というわけだ。
中には和歌山県田辺市内のように、EVユーザーにとってはありがたい山間部の充電ポイントであっても、採算が合わず6カ所撤去された事例もある。
真に持続可能な未来をつくるためにはEVユーザーだけでなく、充電設備を設置する施設にも、人、社会、環境などに配慮する“エシカルユーザー”の来客が増える、客単価があがる、脱炭素化に取り組む施設としての環境価値が向上する、などのメリットが必要である。施設周辺を含めたエリア全体でのEVユーザーが来たくなる場所づくり、いわば充電で人の流れをデザインするといった構想が求められるのではないかと思う。
このあたりは、当社のチーフ・デザイン・オフィサー山崎セイタロウの専門領域のため、第二回で詳細説明を委ねたい。
充電インフラが増えていくためには--2:ユーザーフレンドリーの必要性
当社では2021年末、社用車にもEVを導入した。これにはEV充電サービスに携わる会社として率先することに加え、従業員にもEVの乗り心地や、充電体験を実感してもらいたいという目的がある。
岐阜県のカーインテリアメーカー、ボンフォームで代表取締役社長を務める西脇崇史氏も同じ考えを持っており、100%再生可能エネルギーで充電するグリーン充電を評価いただき、当社の充電器を導入いただいた。いずれは社用車にもEVを導入し、社内の環境意識向上や、EVの扱いに慣れる機会につながればとおっしゃっていた。
補助金が出るとはいえ、EVはまだまだ高額であり、一般購入にはハードルが高い。また、脱炭素施策というと大がかりな取り組みと考えがちだが、まずは会社で再生エネルギーを使用した充電やEVに慣れる環境をつくる、こうした先進的な取り組みをされる経営者が増えていくことを願っている。
令和3年12月3日 朝刊7面(出典:岐阜新聞)当社の社用EVに話を戻そう。当然、充電も実際に体験してもらうのだが、ぜひやってみたいと名乗りをあげた総務の女性社員のひと言が印象的だった。
「え? これどこを見たらやり方わかるんですか?」
さまざまなステッカーやシールが混在しており、情報が多すぎて、どこを読んだらいいのかわからないのだ。彼女には気の毒だが、初心者にいかに難解かを示すため、しばし立ち尽くす姿を撮らせてもらった。
使用したのは急速充電器だったのだが、公共の充電スタンドを利用する際には、充電ネットワーク会社や自動車メーカー各社が発行する「充電カード」が必要になる。そして、認証方法や利用料金は各社によって違い、まずこの充電カード作成に関わる登録ハードルがある。
もし、この充電カードがない場合は充電器ごとに設定された手順に従って「ゲスト(ビジター)充電」しなければならず、その方法も統一されてはいない。
詳しくはEVSmartにて、石井光春氏がゲスト充電の体験レポートを記しているのだが、なんと最長では充電開始までに17分かかるケースもある。
電気自動車ゲスト充電の【実録レポート!】取扱説明書
充電インフラ普及には設置数を増やすだけでなく、すべての人に使いやすい、そして見た目にも美しく使用方法が感覚的にわかりやすいというユーザーフレンドリーさも必要であるということにご納得いただけたのではないだろうか。
筆者の個人的体験を元にEVシフトに必要なことについて書いてきたが、実は筆者は、充電スタンドの会社を作りたかったわけではない。
日本では環境のためにという大義のもと、レジ袋が廃止、マイバック持参の流れになったが、多くの人がやらされ感を感じたのではないだろうか。
海外ではプロギング(Plogging)という、ゴミ拾いまでスポーツにして楽しんでしまうものがある。これはスウェーデン語の「plocka upp(拾い上げる)」と英語の「jogging(ジョギング)」を合わせたもので、スウェーデン発祥のスポーツだ。
ジョギングをする道すがら目についたゴミを拾うというシンプルなスポーツだが、「環境にもいいし、健康にもいい!」そんな楽しみながら環境問題に取り組む姿勢が見える。
EVシフトも同様で、やらされ感では人は動かない。最初にニワトリ卵問題を例にあげたが、EVシフトにおいてはこれからEVに乗る人が楽しいからEVを選ぶ、充電スタンドというプロダクトのみならず前後のユーザー体験も含めた新しいEVライフを提供する、そんな会社をつくっていけたらと考えている。
大川 直樹(おおかわ なおき)プラゴ 代表取締役東京都出身。 2002年、慶應義塾大学法学部卒業。電通に入社し、携帯電話市場におけるマーケティング業務に従事。2007年、子会社のインタラクティブ・プログラム・ガイド社に出向し、放送通信連携に関わるベンチャー企業の経営に携わる。2010年、自動車部品製造業である、大川精螺工業入社、取締役就任。2013年、メキシコに駐在し、現地法人、工場を立上げ。2018年より日本に帰国し、代表取締役に着任。同年、プラゴを設立。2021年 大川精螺工業代表取締役を退任し、プラゴの経営に専念。